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2010年07月の記事一覧

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2010.07.12 京都、恋物語。 第2話
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Date:2010.07.12

京都、恋物語。 第2話

旅館で一番広い大宴会場では毎日朝礼が開かれる。

女将、旦那、若女将、若旦那、料理長(うちの場合は旦那さんが兼業)を上座にするのだが、今日もまた1人人数が揃っていなかった。

「京子さん、松太郎はいないんですか?」

昨日も電話したけど留守電だったし、メールを送っても当然返事はなかった。

女将には何を言っても無駄な事は分かっている。だから私は反論なんてしない。頭を下げて数分我慢すれば解放されるんだから・・・。

「・・・申し訳ありません。」

「俺ならここにいるぜ。」

まさに京子が頭を垂れたその瞬間、座敷にいた全員が部屋の入口の襖にもたれ掛かっている男を注視した。

男は旅館に似合わない程に髪を金色に染め、ジーンズにレザーのジャケットを合わせ、歩けばジャラジャラと音がするほどのアクセサリーを身に着けていた。

「松太郎、何ですかその格好はっ!正装しなさい!」

いつもは冷静な女将もこればかりは堪えたらしい。頬を真っ赤に染めて全身を打ち震わせるほど怒りに満ちていた。

「うるせぇなぁ。京子が何度も何度も電話してくるから来てやったのに、もう帰るからなっ!」

そう言って部屋を出て行こうとした松太郎はふと足を止め、上座へ目線を向けた。

「京子、お前は俺のストーカーか?!しつっこいんだょ!二度と電話もメールもするなっ!!」

そう言ってスパンッと襖を閉めた松太郎を女将は追い掛けて座敷を出て行ってしまった。



―――ザワザワザワ。

「若旦那、さらにすごい格好になってたわねぇ。」

「えぇ~、かっこいいじゃないですかぁ!私若旦那の顔なんて初めてみました。」

「あんなのが若旦那だなんて・・・この旅館潰れるんじゃない?」

「それにしても”ストーカー”だなんて・・・若女将は自分の妻でしょ?!信じられない!」

仕切り役の女将がいなくなった途端、従業員達は口々に好きな事を話し始めた。

もちろんヒソヒソと小声で話しているけど、私の耳にはちゃんと届いていた。

だからって傷ついたりしない。

これが私の日常、死ぬまで続く運命なんだから―――。

「みなさん、お騒がせしました。それでは今日も一日、お客様に快適なお時間を提供できるように頑張りましょう。」

「「「「「よろしくお願いします。」」」」



挨拶を済ませて自分の持ち場へと戻る従業員達を見送り、ひとり座敷に残された京子はやっと肩の力を抜く事が出来た。

「はぁ~・・・」

まだ朝だって言うのに指1本も動かしたくないほどに疲れてしまった。

それにしても、何だって松太郎は朝から顔なんて出したんだろう?いつもなら無視してくれるのに。

私だってあいつに来てほしいなんてこれっぽっちも思っていない。

どうせ来たって仕事はしないし、文句ばかりで女将さんの逆鱗に触れるだけ。そのとばっちりを食うのは当然私だ。

女将さんの手前、一応連絡はしたけど掛けたのは一度だけ。もちろん留守電も残していない。

メールだって”女将さんが出て来て欲しいそうです”とだけ入力した。

なのに”何度も何度も掛けてくんな”なんて、何を考えてるのかさぱり分からない。

「今日は長い一日になりそうだわ・・・」

京子はそう呟くを思い腰を上げて座敷を後にした。



***



「若女将、若女将!」

ロビーを通りかかると、今年の4月から入ったばかりの仲居に呼びとめられた。

柱からひょっこり顔を出して嬉しそうに手招きする姿はとてもかわいくて、京子は思わずくすっとわらいながら足を運んだ。

「真樹ちゃん、どうしたの?」

「さっき番頭さんに予約の受付の仕方を教えてもらってたんですけどね、その時ずっごい予約が入っちゃったんですょ!」

「すごい予約?」

「今年の9月から始まるドラマの撮影が京都であるんだけど、うちの旅館を使わせてほしいんですって!」

「ドラマの撮影?だめよ、そんなの。うちは一切お受けしていな事知っているでしょ?」

京都でも指折りの老舗旅館。

これまでも撮影依頼があったけど一度も受けた事はない。それが女将さんのモットーでもあるからだ。

「撮影じゃなくて宿泊ですよ、宿泊!」

真樹ちゃんの話によると、主演俳優の所属事務所の社長さんが撮影の1か月間、スタッフと出演者全員をここに泊めたいらしい。

総勢89~133名の大所帯(その日によって人数は変わるらしい)だけど、俳優陣だけは個室でスタッフは大宴会場を貸し切って雑魚寝で構わないとの事。

お布団一式や足りない備品は言ってくれれば事前に用意するという何とも壮大な話に、開いた口がふさがらないとはこの事だな、と思ってしまった。

「話を聞いた女将さんも喜んでましたよ!」

「お、女将さんが?OKしたの?」

「はい。だって考えてみて下さいよ。1か月間89~133名の団体客。いくらだと思います?」

そう言った真樹ちゃんの口元はニヤニヤ緩みっぱなしで思わずつられそうになったけど、はっと我に返った。

「ま、真樹ちゃん、下品な話は慎みなさい。」

「はぁ~い。でも楽しみぃ~!女将さんも一緒に撮影見学しましょうね♪」

「そうね。」



真樹ちゃんは本当に可愛い子だと思う。

今年高校を卒業してうちに来た未来への希望に満ちあふれた彼女がただただ眩しかった。

私だって2年前までは絶望の中にも微かに光る希望が、高校さえ卒業すればここを出ていけるという希望があった。

それも高校卒業と同時に勝手に進められた松太郎との結婚で打ち砕かれた。

それから2年、私は未だに暗闇の世界から抜け出せてはいない。それどころか私にはもう抜け出す気力すらない。

未来への希望も、日々の楽しみも、私には何もない。

あるのはただ、この旅館で名ばかりの女将として馬車馬のように働かされる未来だけ―――ただ、それだけ―――。







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(。-ω-。)-------------------------------------------------あとがき-------------------------------------------------(。-ω-。)



まさかとは思ったけど・・・長編決定だwww


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